2019年度 シラバス情報詳細

●時間割コード
20190043312

●科目区分
理系教養科目

●科目名
自然環境と人間
●主担当教員名
中塚 武

●単位数
2単位

●開講時期
Ⅳ期
水・3
●対象学部
文系



●本授業の目的およびねらい

昨今、地球規模での気候や環境の変化が、人間社会に与える影響が危惧されている。自然環境が大きく変化すると、私たちの社会はどうなるのだろうか。本授業では、弥生時代から現在までの約3千年間の日本の歴史を主な題材にして、さまざまな時代におきた大きな気候変動に対して、私たちの祖先がどのように対応してきたのかを、最新の古気候復元のデータと膨大な数の文献史料・考古資料を照合しながら、明らかにしていく。そして、自然や社会の環境変化に対して、私たちはどのように対峙していくべきなのかについて、文理双方の視点から、一緒に考えていく。

●履修条件あるいは関連する科目等

履修の条件は特にないが、本授業は「古気候学・気候学」と「歴史学・考古学」という、文理双方の知見を組み合わせて物事を考えることを、重視している。それゆえ、文系と理系の両方の科目に興味を持っている学生の受講を歓迎する。

●授業内容

1.プロローグ:「平家は驕って(おごって)いたから滅んだのか」(気候変動は日本史をどのように左右したのか(ダイジェスト版))
2.過去の気候変動を復元する(その1)(古気候学概論)
3.過去の気候変動を復元する(その2)(高時空間分解能での古気候復元)
4.人類史の気候学的背景を知る(その1)(ホモ・サピエンスの登場と拡散)
5.人類史の気候学的背景を知る(その2)(農業革命から産業革命まで)
6.気候変動のメカニズムを理解する(その1)(数千~数万年周期:氷期・間氷期変動)
7.気候変動のメカニズムを理解する(その2)(数年~数十年周期:大気海洋相互作用)
8.気候変動のメカニズムを理解する(その3)(地球温暖化:人間活動の直接的な影響)
9.日本史と気候の関係を見つける(その1)(文献史料から分かること)
10.日本史と気候の関係を見つける(その2)(考古資料から分かること)
11.歴史と気候の関係を調べる(その1)(誰でもできる気候変動の解析-気候学)
12.歴史と気候の関係を調べる(その2)(歴史ビックデータ解析-歴史学)
13.歴史と気候の関係を調べる(その3)(酸素同位体比年輪年代法-考古学)
14.エピローグ:持続可能な自然と人間の関係について考える
15.試験と講評


●成績評価の方法

出席確認を兼ねた小テスト(毎回、40%)
期末に筆記試験(60%)
期末筆記試験の未受験者は「欠席」とする

●教科書

特になし。必要に応じて講義中に提示する。

●参考書

特になし。必要に応じて講義中に提示する。

●注意事項



●本授業に関する参照Webページ



●担当者からの言葉(Webページのみ表示)

 従来、気候変動と人間社会の関係については、両者の強い関係を示唆する「気候決定論」とも言える立場と、気候等の物理的環境からの人間の独立性を説く「気候無関係論」とも言える立場が、共存してきました。前者は、主に理科系の研究者の立場で、後者は、主に文科系の研究者の立場でした。しかし両者に共通する問題は、過去における気候変動の実態が不明なので詳しいことは分らない、というものでした。実際、従来の古気候学では、例えば、過去千年間の気候復元の精度は「十年単位」、過去百万年間の気候復元の精度は「千年単位」が限度であり、社会の構成員である一人一人の人間の「寿命」やその行動パターンを決める際に参照される「記憶」の時間スケール(数十年~数年)よりも、遥に粗い解像度の気候変動データしか提供できて来ませんでした。例えば、100年で5度気温が上昇するにしても、それがゆっくりと毎年0.05度ずつ上がるのと、数年単位で10度程度の気温の激しい上下動を伴いながら、平均値が、結果的に100年で5度上昇するのとでは、個人や社会に与えるインパクトも、まるで異なるものと思われます。しかし従来の古気候学では、この違いが見分けられませんでした。
 しかし近年、アイスコアや鍾乳石、樹木年輪等に含まれる安定同位体比などを用いた研究の発展により、1年単位、或いは、季節単位の気候変動のデータが、数千年、数万年前の時代に遡って取得できるようになり、気候変動と人間社会の関係に関する実証的な新しい研究の可能性が、一気に開けてきています。本授業は、担当教員自身が過去5年間に亘って、大学共同利用機関である京都の総合地球環境学研究所において、文理双方のさまざまな分野の研究者らと共に実施した研究プロジェクト「高分解能古気候学と歴史・気候学の連携による気候変動に強い社会システムの探索」の成果(http://www.chikyu.ac.jp/nenrin/)を、皆さんに紹介するものです。この新しい文理融合の地球環境学の息吹を、本授業で、是非、感じ取ってもらえればと思います。



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